南の国の太陽、空の色の獅子

Category :  展覧会
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東京国立近代美術館の3階の一角には、「戦争画」のコーナーがある。
所蔵品展の他のコーナーと同じく、行く度に、色々な絵がとっかえひっかえ並べられているが、掲げられた絵はどれも、(展覧会場の他の絵画と比べ)やたらと号数が大きい。そのくせ、さっぱり魅力がない。

自分が、「第二次大戦中、軍部が、戦意高揚のため、画家たちに描かせたプロパガンダ」という色メガネで見ていることは否定しないが、独立した絵画作品として、どれも貧相にみえる。

しかし、何度目かの訪問時、遠くから見て、はた、と目の止まった絵があった。
今まで見てきた、うすっぺらで、しらじらしい絵画群とは、違う。

近づいてゆき、一通り眺めてから、横に目を動かし、作者名を見た。
そこにあった名は、「藤田嗣治」

芸術作品としてのレベルにあるのではないか、と思ったのは道理だ。と納得すると同時に、「藤田が、戦争画を描いていた時期があったのか」と意外に思った。
そのときまで私は、藤田嗣治が戦争画の大家で、多数の戦争画を描いていたことを知らなかった。藤田といえば、乳白色の肌の裸婦と猫しか知らなかった。

少々の関心を持ち、「戦争と美術 (岩波新書)」(司修/岩波書店/1992)を図書館から借りて読んだ。
ここには、戦時中に幼年期をすごした画家としての、戦争画に関する痛々しいまでの思索が綴られている。

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次に、藤田の戦争画を巡る話に出会ったのは、今年の1月、NHKで放送された「さまよえる戦争画ー従軍画家と遺族たちの証言」である。

7年前の2003年製作の番組の再放送で、番組の中では、東近美の保管する153点の戦争画のうち、半数近くがまだ公開されていない、と紹介された。

2ケ月後の3月、東近美に行くと、名高い「アッツ島玉砕」が展示されていた。

絵の前に立って、長いこと見た。
白兵戦や死体の山の描写は、自分には、特段のインパクトはない。凄惨な殺し合いの図なら過去にいくらでも見ている。

最初に面白いと思った点は、「日本兵と敵国(アメリカ)兵の描き分けが不明瞭」なことだった。
現実の日本人とアメリカ人とは、体格も顔の造作も、大きく異なる。しかし、身体的特徴の差異が明瞭には描き分けられていない。
兵隊の所属国の区別は、身体的特徴より、身に付けたもの、装備ですることが多い。その方が確実・明確だからだが、この絵では、それも判りにくい。
よく見れば、判る。だが、一見したところでは、死んでいるのがどちらの兵なのか判りにくい。奇妙だ。

最も注意を引いたのは、「これは日本人」と判別した兵の顔が、「『悪』を想起させる残虐性に満ちたものにみえたこと」だった。

「神兵」であるはずの日本の兵隊を、こんな野蛮で残虐な悪鬼のような顔で描いてよかったのだろうか。
当時の人々は、これを肯定して受け入れたのか。「悪鬼」にみえるのは、私の個人的な感覚で、多数にはそう見えないのか。
決死の覚悟で死に物狂いで闘う殉教者の姿としてこれでよかったのか?

自分には、何度見直しても、「悪鬼」にしかみえない。人間の持つ残虐性、残忍性、サディズム、暗い闇の奥にある本性を、これでもか、と暴き立てたような顔だ。

藤田は、この絵を、どういうつもりで描いたのだろう。
乳白色の肌の裸婦と、この悪鬼の日本兵の間には何があるのだろう。

疑問を抱いた自分は、藤田に関する本を読み始めた。

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評伝 藤田嗣治 (田中穣/芸術新聞社/1988)
藤田嗣治 パリからの恋文 (湯原かの子/新潮社/2006)
藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫) (近藤史人/講談社/2002)

ここまでで、切り上げることにした。
打ち切った理由のひとつは、自分の内に、次々に問題が湧いて出て、収拾がつかなくなったこと。

戦争画の評価を語るならば、「芸術とはなんぞや」という定義の認識を確立しておく必要がある。
自分は、遠い昔の学生時代に、美学・芸術学の講義をとったきり、自分の内で深く考えたことはなく、ほったらかしている。今後も追及して思索する意欲はない。

戦争画を描いた藤田の責任については、藤田ひとりではなく、当時の日本の文化人たち、いや、日本国民全体の問題として思考するものだろう。
あの戦争をどう考えるか、最近、自分の内で、以前とは異なる見方が芽生えてきた。これは非常に大きな問題で、この課題の前では、藤田の評価などは、どうでもいい。

自分が藤田の絵を好きで、彼の人間像にも興味を持ち、評価を定めたいという欲望があるなら別だが、そうでなければ、考える価値のないことだ。

・2010/06/29 : 藤田嗣治の戦争画(2)
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