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南の国の太陽、空の色の獅子

Category :  自転車
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ツール・ド・フランス総合優勝を達成するために必要な能力

いいタイミングだから、ここで重要な問題への答えをのべておきたい。その問いとは、「この時代、ドーピングを使わずにプロの自転車レースで勝つのは可能だったのか?」「クリーンな選手は、エドガーを使う選手と戦えたのか?」
(注)エドガー:EPOの隠語。元はエドガー・アラン・ポー

その答えは「レースによる」だ。
短距離のレースや、一週間のステージレースであれば「イエス」と答えられる。僕は実際、パニアグア(ヘマトクリット値はわずか42)で走り、四日間のレースで勝ったことがある。同じような条件で、タイムトライアルでも勝った。他の選手も同じように勝っている。
(注)パニアグア:ドーピングなしを指す隠語

でもレースが一週間を超えると、クリーンな選手が勝つのは急に難しくなる。
長丁場のレースでは、エドガーのメリットが急激に高まるからだ。
レース期間が長引くほど、エドガーのメリットも大きくなる。
つまり、ツール・ド・フランスでは、エドガーは絶大な力を発揮する。

これは、生理学的なコストという考えで説明できる。大きな労力には(たとえばアルプスステージや、タイムトライアルで勝つこと)、大量のコストがかかる。つまり、大量のエネルギーを費やさなくてはならない。身体は疲弊し、ヘマトクリット値は低下する。テストステロンも減る。
エドガーと赤い卵がなければ、これらのコストは累積していく。エドガーと赤い卵をとれば、回復が促され、身体はバランスを取り戻し、翌日以降も同じレベルで走り続けやすくなる。

(注)赤い卵:テストステロン(男性ホルモンの一種)の薬剤の隠語。カプセルがそういう形に見えたことから。

ドーピングは、パフォーマンスを高める魔法の薬というよりも、疲労をできるだけ抑え、回復を促すことで選手の身体に作用しているのだ。


(注)と強調は、私が入れた。

上記の説明(主張)は、新奇なものではない。が、「一般人」に対する説明として、かなり出来がよい(説得力がある)もの、ではないかと思う。

この文章を作ったのは、正確には、ハミルトンではなく、ノンフィクション作家のダニエル・コイルである。
ハミルトンに対する長時間のインタビュー(60回以上)を元に、証言の裏をとるために多数の関係者にも取材をした上で、本書を書いた。
本文は、ハミルトンの一人称で書かれているが、まえがきで、コイルが本書の成立の経緯・背景をきちんと説明している。

コイルは、2005年に、ランス・アームストロングを題材にした本を出版した経歴を持つ。("Lance Armstrong's War"邦訳なし)
このとき彼は、ランス本人及び関係者たちに取材をしたが、ランスがクロと認定した描写はしなかったそうだ。
コイルにとっては、本書の上梓は、いわば彼自身の仕事の後始末であり、それがゆえに、読者に対して説得力・信頼性を持ったものに仕上がったのではないだろうか。

私は、上記の一節を読んだとき、別の書籍の文章をぱっと思い出した。
ツール・ド・ランス」の中の一節。
わざわざ引用して、ブログに書いたから、すぐ想起した。
2010/12/27 : 「ツール・ド・ランス」(2)~シューズを忘れるエース

今読み返すと、爆笑しそう。
確かに、「TdFの3週目に力を発揮すること」が、総合優勝するためには必須で、歴代のチャンピオンたちが備えていた能力である。
3週目にコンディションを保つこと、すなわち「消耗からの回復力の程度」が、マイヨ・ジョーヌの決め手になる。

「少なくとも」ランス・アームストロングに関しては、その驚異的な回復力は、生来の資質でも、合法的トレーニングによって得たものでもなく、フェラーリ医師の策定した綿密・周到な非合法のドーピングを用いたトレーニングによって獲得していたものであったことが、今や、はっきりした。

では、「ストリックランドがランスと並べて名を挙げた2人は??」が、当然に湧く設問である。

この設問は横に置いても、グラン・ツールの3週目の山岳で抜きん出た強さを発揮する選手を、「素晴らしい」と賞賛するのは、「ツール・ド・ランス」の著者や私のような「何も知らない外部の人間」で、ハミルトンを始めとする「内側の人々」は、「やってるんだろう」とみなす(疑ってかかる)ことは、十分に(十分すぎるくらい)、理解・納得をした。

関連:
2013/06/29 : 「シークレット・レース」読了
2013/05/13 : 「シークレット・レース」(タイラー・ハミルトン)

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